建築物の解体等に関わる作業者の健康診断

『建築物の解体等に関わる作業者の健康診断』

一般社団法人JATI協会 
技術参与 浅見琢也

 多くの建築物では、石綿含有建材が使用されています。このため、建築物の解体等の作業においては、作業者が石綿を吸引することが考えられます。石綿を吸引することにより、石綿肺、肺がん等の病気になるリスクがあることが知られており、そのため、できるだけ石綿を飛散させない作業方法や防じんマスク等の保護具の使用が法令により規定されています。これらは非常に重要でありますが、各種のマニュアルで解説されていることも多く、ご覧になった方も多いかと思います。そこで、ここでは病気の早期発見等に重要な健康診断について、その概要を述べます。

 建築物の解体等の作業では、一般に石綿以外の粉じんが発散するため、労働安全衛生規則の“特定業務”および粉じん肺法の“粉じん作業”に該当することがあり、この場合は、一般健康診断、石綿健康診断および粉じん健康診断を行う必要があります。

 一般健康診断の定期検査は、通常は年1回ですが、特定業務に常時従事する作業者は半年に1回となります。作業内容を確認して、作業が特定業務に該当するかどうかの確認が必要です。

 石綿健康診断の定期検査は、半年に1回行う必要があります。ここで注意することは、過去に常時石綿含有建材の解体等の作業に従事していた作業者についても、会社に在籍している間は石綿健康診断を行う必要があることです。

 石綿健康診断の検査項目に胸部X線直接撮影がありますが、一般健康診断の間接撮影とは方法が異なります。ただし、この検査を行えば、一般健康診断の胸部X線検査は行う必要がありません。また、CT検査も病気の発見には有効ですが、放射線被ばく量が多いので、実施頻度は考える必要があります。

 なお、著者は現在は石綿を常時取り扱っておりませんが、過去の業務の関係で年2回、石綿健康診断を受診しており、胸部X線検査で石綿とは関係がない病気が見つかったことがあります。

 じん肺健康診断は、まず職歴の調査と胸部X線直接撮影を行い、異常がある場合に他の検査を行います。ただし、この2項目は石綿健康診断でも実施しており、じん肺健康診断を兼ねることが可能です。

 定期的な健康診断の頻度は複雑です。現在、常時粉じん作業を行っている場合は、じん肺の管理区分により3年または1年ごとに1回行います。また、会社に在籍している場合は、粉じん作業を常時行わなくなってからも、じん肺健康診断を行う必要がありますが、じん肺の管理区分により3年または1年に1回、あるいは実施なしです。

 なお、退社した作業者が条件を満たす場合は、所轄の労働基準監督署長に申請することにより、石綿および粉じんの健康管理手帳を受け取り、石綿健康診断・じん肺健康診断を国の負担により受診できます。しかし、作業者個人で申請書類を作成することは大変ですので、会社として協力していただくことを希望いたします。

出典 =調査会News 2023年9月26日号=

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